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「君の名は。」は見た後もしんどくならない(感想)

映画を半年にいっぺんくらいしか見ない私ですが、「君の名は。」見てきました。

多分友達に誘われなかったら行く機会はなかったと思うのでホント感謝です。映画はズートピア以来だけど、ズートピアとは似つかない映画ですね!

 

新海誠作品は金曜ロードショーで見た秒速しか覚えがないので信者ではありません。秒速見たときは切なくて苦しくて死にたくなった。吐くかと思った。

言の葉の庭はなんとなくずっと見てみたいなと思っています。主人公がCV入野自由なのでとても興味がある。機会をくれ…。

極めて簡潔に感想を述べるとするならば

見始め:完全にTHE 新海誠。あとRADのMVとしてこの映像作ってるだろ。

見終わり:見終わったあとなのに秒速の時みたいに死にたくならない!すごい!

でした。

 

※以下ネタバレ有の感想です。ストーリーがきちんとあるので、未視聴でネタバレ気にする人は見ないほうがいいかも。

あと、「秒速しか見てないのに新海誠を語るな!!」って思う人絶対いると思いますごめんなさい

 

 

 

 

なんでハッピーエンドなんだろう

まさかハッピーエンドになるなんて予想もしてなかった!!! 裏切られました!!!!

中盤(三年前との入れ替わりに気づくあたり)から、もうこれはどう転んでもどこかでバッドエンドに入るだろうと思ってみていたのに、ぎりぎりのところで常にグッドな結末に向かっていておどろきました。

例を挙げるとたくさんあるんですけど

  • 口噛み酒を飲むシーン…これは酒によって見た幻で、うまく行っても行かなくても自分の現実改変を行うことができず、記憶を失って終わるのではないか?(幻ではなかった)
  • 三葉と瀧が自分の体に戻ったあと、三葉が奔走するシーン…これはお父さんを説得できたかどうか分からないけれど、いずれにせよ彗星墜落には間に合いませんでしたというオチなのでは?彗星めっちゃ落ちてきてるしこれは間に合わないでしょ(間に合った)
  • 二人が大人になって、階段ですれ違うラストシーン…すごくためらって、でも声掛けないまま気のせいで済ませるやつでしょ!!!秒速みたいにもやもやさせるんだ!!!秒速みたいに!!!(ならなかった)

実際いつバッドルートに入るかと思ってみていたので、普通に見ていてハラハラしました。

だって、これで無事に彗星墜落を逃れて、しかもその後また会うことができるなんて、あまりに幸運のバランスが(一度の奇跡的なタイムスリップによって)崩れすぎている…。口噛み酒の奇跡であまりに都合がよく運ばれすぎている…。こんなはずがない…。

穿ち過ぎていて、むしろ見ていて展開に手に汗握れたのである意味良かったともいえるけど…釈然としなくもある。

ハッピーエンドで終わるので、見た後の後味が悪くないのは、拍子抜けしたけどまあ良かったか。少なくとも、ハッピーエンドにしたことでリピーターも増えるだろうし、新海誠信者じゃなくても見やすいんじゃないか。たぶん、これだけのヒットには少なからず影響しているでしょう。

でも別に恋愛関係にならなくても良かった、個人的には。恋愛関係に移行するのは理解できるが、安易な着地といえば安易かな?必然性がちょっと弱く感じもする。

 

直接・間接的に後味を良くしてくれる演出

秒速と違うなと感じたのは、一つは上述したような直接的「後味の良さ」。もう一つは「絶対にありえないファンタジー要素を入れた」ことでした。

つまり、自分が人物に感情移入しても「こんなことは(少なくとも現象的には)絶対ありえない」と思うので、変に入れ込みすぎないというか、自然と追体験してしまう心の所作をこっそりセーブされている、この感じによって間接的に後味が良くなる。

というのも、秒速はドラマティックな話だけど、(ほぼ完璧にありえなくとも)現実世界であるかもしれないことであって、再現できなくはないんですよね。ひたすら主人公の感情を追跡してしまって、自分のいろんな体験に重ね合わせてしまって、主人公と同様にやりきれなくて辛くなる。

しかし「君の名は。」には圧倒的なありえなさとしての「入れ替わり」「タイムスリップ」「過去のやり直し」という要素があって、なんとなく人物や物語と自分の間に距離をおいて見ることができる。少なくとも私はそうだったので、秒速みたいなやり場のない辛さはなく、「ああ、あの二人は救われて再会出来て、うまくいってよかったなあ」という視点で終わることができ、気が楽でした。

(ただ、終わってから考えてしまったけれど、やり直しの時点で運命が変わったから、「パラレルワールドにそのときの主人公たちが移行できただけ、元の世界も同様に存在している」という微妙に救われきれないオチだったらどうしよう。この可能性はあるともないとも言いきれなくてもやもやする…)

 

純粋に構成と表現のレベルが高い

(どこまでが新海プロデュースかはさておき)、演出と音と絵は本当にいいところが多くて、素直に見ていて楽しかったです。

RADプロデュースのBGM・曲も結構合ってたと思います。RAD特有のクリーンで摩擦のないギターの音色が、現実の(視覚・聴覚的に)綺麗なところをたくさん表現してくれるこの映画によく似合っていました。

二人の電子的記録が文字化けして消えていくところとかは焦りと文字の無機質な変化がうまくリンクしていたし、あれは電子的なものに対してだからこそ、感じられるリアルな恐怖という感じで。

互いの記憶が、真実に気づいたところからみるみる零れ落ちるシーンも妙にリアル。夢を見ているとはよく言ったもので、まさに夢の記憶が起きた瞬間みるみる消えていって、必死で留めようとする感覚がリンクしました。

何より、偶然世界のバグの当事者になって、何事もなかったかのようにそれが修正されていく様は、世界による無慈悲な歪み修正のようで大変良かった。中二病っぽくて最高でした。最高!
でも、ここまで現代に擦り寄ってて、あまつさえiPhoneをバンバン出してるの見てると、数十年後に見た時にはなんだか違う感想を抱きそうだなって思ってしまう。現実に沿ってる分、今はすごく共感できるんだけど、共感の極大をガツンと今に持ってきているあたりが普遍性を持つジブリ作品とは違うなあ、と思いました。

あとは伏線が結構張られていて、実は無駄なシーンがかなり削ぎ落とされていることに、見ていてどんどん気づけていける構成なのが良い。

正直、最初の彗星がどんどん落ちてくるシーンも、それを主人公二人が眺めているシーンも何なんだ?としか最初は思わなくて、後半も後半の方で同じシーンが流れてようやく気づいてハッとした。こういうアハ体験的な気づきが適度にあると、見ていて気持ちが良いというか。

組紐はそれはもう、しつこいくらいにリフレインされていましたが、おばあちゃんの言葉に意味がこもっていて、繰り返されるたびにその言葉の重みが増して感じられて、いいフレーズ・モチーフだなと思いました。

…しかし、口噛み酒のシーンとか、やたら胸を揉むシーンとか、微妙に趣味混じってないか???とは思った。

まあ胸のシーンはまだ理解できるんだけど。確かに視覚的にもわかりやすいけど。めっちゃ柔らかそう。

何気にトイレのシーンとかも強調されてて。ギャグとはわかっていてもこれ趣味じゃないのか?って感じた。

口噛み酒は…、まあ個人的には良いモチーフだと思うが、口噛み酒である必然性はどうなんだろうなあ。三葉との結びつきという意味では、なんせ一度体に含まれたわけで、相当に強いからいいんだけど。あと描写が妙にリアルでなんだか笑ってしまった。いいんだけど。

役者の演技は本当に良かった。なんといってもW主人公の中の人ですよ、すごい良かった。

何がいいって、ちゃんと入れ替わっていることが声を聞けばわかるところがいい。声色や話し方の細かい所作をなぞっていて、丁寧な演技だなと思いました。

正直、ここだけでも映画代払う価値はあるんじゃない? 同じことしか言わないけど演技が上手い、本当によかった。特に必死そうなところがうまい。


新海誠の「美しさの暴力」の具現化

彗星の落下シーン、すごく綺麗でした。新海誠最骨頂と言わんばかりの色彩に澄んだ音といい、とにかく美しい。純度の高い美しさを享受できる。

でも、この彗星によって起こる未来を知ってしまうとあまりにも複雑な気持ちになりました。

例えば、瀧くんが屋上で彗星を「綺麗だ」と見上げるところもそう。テレビ中継が入り交じる中で最後にはっきり聞こえた「このような機会に巡り会えるなんて私たちは幸運」というアナウンサーの言葉もそうです。

凄惨な事故は確かに起こるけれども、それが分かる前と後で彗星の美しさは(その人の主観によるとはいえ)変わらないはずで、無情だなあと感じもするんですけど、でも同じシーンを何度見てもやっぱり最初と同じくらい「美しい」と感じてしまうんですよね。

この感じは秒速を見た後の苦しさにちょっと似ていました。秒速の映像は本当に美しさの塊で綺麗なんですけど、その綺麗さがストーリーとあいまってものすごく切なくさせるというか、胸が締め付けられる。景色が殴ってくるというのかな。でもやっぱり綺麗なんですよね…複雑…。

そう考えると作中の彗星は、それ自身に罪はなくとも、ものすごく暴力的で、そしてそれは新海誠が演出する美しさが持つ強いエネルギーと似ているな、と感じました。美しさと暴力の具現化(具体例?)として彗星を見てしまいます。

(彗星によって壊れた町も、壊れた人工物は悲惨だけど自然の景色はどこまでも綺麗なんですよね。どす黒い雲とかも覆ってこないし。その綺麗さがまた刺さる。)


新海誠≒洋楽アーティスト(?)

ぶっちゃけ新海誠はもう、電車、すれ違う男女(そして成長後も描かれる)、景色の美しさ(による暴力)などは禁じ手にして、あえて縛りルールで作品作ってみてほしいと思ってしまう(もうあったらごめんなさい)。正直一部シーンはあまりに秒速との既視感が半端ない。

今回見ていて、新海誠は洋楽アーティスト寄りのモノづくりをしているのかな、と少し感じました。(他の作品を見たら感想は変わるのかもしれませんが)

洋楽アーティストって、日本と比べると同じジャンルの、(聞きようによっては)似たような曲をストイックに作り続ける職人のような人が多い傾向にあると思います。日本の人のほうがいろんなジャンルに手を伸ばすイメージで。

だから私の場合、洋楽のアーティストは好き嫌いが結構激しく出て、この人の曲は大体好き、この人のはどれもあんまり合わないっていうのがはっきりするんですが。新海誠からもそれを感じました。

この世界を突き詰めて作るぞ!みたいな心を感じる…ような? ちょっとおこがましいかな?

 

 

ところで本当にどうでもいい話なんだけど、ティアマト彗星って見た瞬間ふきだしそうになってヤバかった。ぜんぶグラブルのせいです。